開業医は何歳まで働ける?引退の年齢や5つの悩み・開業に適した時期を解説
2024年9月13日
開業医として何歳まで働けるのか、そもそも定年はあるのか、引退時にどんな問題が生じるのかは、多くの開業医にとって重要なテーマです。円満な引退を迎えるためには、開業を検討する段階で引退に関する情報やリスクを把握し、計画的な準備を進めることが大切です。
この記事では、開業医の引退年齢や定年の考え方、引退時に抱えやすい悩み、開業時期の目安を解説します。
目次
開業医は何歳まで働くのか?
開業医が何歳まで働くかについては、個々の状況によります。開業医の引退年齢を直接調べたデータは存在しませんが、日本医師会が2020年に実施した調査をもとに、解説します。
この調査は、全国の約4,000の民間医療機関の経営者を対象に行われたものです。
開業医の引退予定年齢は70〜75歳
日本医師会の調査によると、現経営者の引退予定年齢は平均で73.1歳でした。また、5歳ごとの年齢層別データでは「70〜75歳」が最も多い層であることを示しています。
この数値は、実際の引退年齢と多少のズレがある可能性があるものの、開業医が考える引退の目安として参考になるでしょう。
出典: 日本医師会総合政策研究機構|日医総研ワーキングペーパー No.440 P24
開業医の約4人に1人は70歳以上でも現役
少子高齢化により、医師の高齢化も進んでいます。厚生労働省が2022年に公表した「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、診療所に勤務する医師の年齢層別構成が明らかになっています。
この統計では、開業医の約4人に1人が70歳以上であり、一般的な定年とされる60歳以上の医師は全体の52.7%を占めています。
医師数(人) | 構成割合(%) | |
---|---|---|
総数 | 107348 | 100.0 |
29歳以下 | 400 | 0.4 |
30〜39歳 | 5774 | 5.4 |
40〜49歳 | 17602 | 16.4 |
50〜59歳 | 27028 | 25.2 |
60〜69歳 | 31845 | 29.7 |
70歳以上 | 24699 | 23.0 |
平均年齢 | 60.4歳 |
出典: 厚生労働省|令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 P6
このデータからわかるように、医師の平均年齢が高まる傾向にあり、開業医として長く働き続けるケースが増えています。これは、医師としての経験を積むことにより、継続的に診療を続ける意欲が高いと想定されます。
そもそも医師に定年はあるのか
医師に定年という概念は、勤務形態によって異なります。
定年とは、組織が規定によって定めた労働者の退職年齢であり、組織に所属している勤務医の場合、その組織の規定に従う必要があります。
ここでは、公務員や民間病院の勤務医と開業医の定年について比較していきましょう。
公務員(勤務医)の定年
公務員の勤務医とは、次の医療機関に所属する医師を指します。
国公立系の大学病院
公的病院
国立病院機構の病
国公立系の大学病院と公的病院の医師は「公務員」に含まれ、国家公務員法に基づき定年が規定されています。国立病院機構の病院の医師は「みなし公務員」として公務員に準じた給与・待遇を受けます。
国家公務員法(第八十一条の二)では、国家公務員の定年は原則60歳です。ただし「病院、療養所、診療所等に勤務する医師、歯科医師等」については、特例で65歳が定年とされています。
さらに、国家公務員の定年は段階的に引き上げられる可能性があるため、勤務医の定年も引き上がることが予想されます。
民間病院(勤務医)の定年
民間病院の勤務医とは、公務員の勤務医が所属する医療機関以外の病院で働く医師を指します。
民間病院で働く勤務医の場合は、その病院が定めた規定に基づき定年が決定されます。多くの場合は60歳または65歳に設定されていますが、より長く65〜70歳に設定されているケースも珍しくありません。病院によっては定年制度自体を撤廃している場合もあり、公務員の勤務医と比較すると自由度が高いといえるでしょう。
病院幹部である院長・副院長・医長などの場合は、定年制度の対象外として生涯現役を続けることもあります。50歳以上になれば定年後のキャリアを見据えて、病院幹部を目指すのも1つの手段です。
民間病院では退職金や再雇用の規定も各病院で異なるため、規定を把握しておき、老後の人生が円満になるよう準備をしておくとよいでしょう。
開業医の定年
開業医は個人事業主として働いており、法的な定年は存在しません。引退するかどうかは個人の判断に委ねられており、体力が続く限り診療を続けられます。
もし体力が落ちて自分自身が診療に携われなくなった場合でも、他の医師を院長として雇用し、自分は経営に専念することも可能です。
このように、開業医は自分のペースで柔軟に働くことができ、公務員や民間病院の勤務医に比べて自由度が高いといえるでしょう。
開業医として働ける年数は?
開業医として働ける年数は、開業を始める年齢と引退時期によって大きく左右されます。
日本医師会の調査によると、新規に開業する医師の平均年齢は41.3歳であり、引退予定の平均年齢は73.1歳とされています。これをもとに、開業医として働ける期間を計算すると、約32年間働けることになります。
73.1−41.3=31.8年(開業医として働ける年数の目安)
この計算式は、平均的な数値を示していますが、個々の医師の状況によって異なります。例えば、医療の進歩やライフスタイルの変化により、健康寿命が延びれば、さらに長い期間働くことも可能です。
逆に、家庭の事情や健康上の理由から、早期引退を選択する場合もあるでしょう。
開業医が引退時に抱える5つの悩みと対策
開業医は、そのキャリアを終えるまでにさまざまな問題に対応する必要があります。とくに引退時に抱える悩みは、以下の5つが一般的です。
後継者の不在
引退後の生活資金
開業時の借入金返済
患者の引き継ぎ先の不在
やりがいや充実感の不足
詳しくみていきましょう。
1. 後継者の不在
開業医が引退する際には、事業承継をするか、クリニックを閉院するかの選択を迫られます。
帝国データバンクが2023年に実施した調査によると、約8割の診療所が後継者を確保できていないとされています。
出典: 株式会社帝国データバンク情報統括部|医療機関の「休廃業・解散」動向調査 (2023年度) P2
医師の実子が診療所を引き継がずに勤務医を続けるケースが増えつつあり、第三者承継という選択肢をとる開業医が増えています。
事業継承は、医療機関の継続性を保つ重要な手段の1つですが、自身が体調を崩してしまい、引き継ぐ前に閉院を余儀なくされる事例も少なくありません。
後継者問題に対処するためには、引退を目前にして後継者を探すのではなく、引退時期を見据えて準備をしておくことが非常に大切です。後継者の育成や選定、事業継承に関する法的手続きの準備などを進めておくことで、円滑な引退につなげられるでしょう。
2. 引退後の生活資金
引退後に必要な生活資金は、健康状態や生活スタイルによって変動するため、開業医にとって不安がつきまといやすいものです。
まずは、毎月の生活費やローンの残金などを整理し、最低限必要な資金の目安を立てることが重要です。一般的に、40歳で開業し70歳で引退する場合、約30年分の資金を準備することが最適だと考えられます。
引退後の主な資金源は、公的年金と個人年金、金融資産の取り崩しです。資金源は個人医院と医療法人でも異なり、個人医院では国民年金が基本ですが、医療法人では国民年金に加えて厚生年金も受給できます。
また、医療法人では、税制上優遇される退職一時金も準備できます。これらを適切に組み合わせ、引退後の生活を賄う計画を立てることが賢明でしょう。
3. 開業時の借入金返済
開業が軌道に乗るまでには、ある程度の時間がかかります。そのため、開業時期が遅れるほど最終的な利益が減少し、開業時の借入金の返済が難しくなる可能性が高まります。特に、設備投資などへの借入金の債務が引退時に残っている場合、経済的な負担が増大するリスクがあります。
また、クリニックを閉院する場合は廃業コストがかかるため、想定以上の出費が必要になるケースも少なくないでしょう。こうしたリスクを軽減するためには、早めに事業承継を検討し、クリニックの譲渡によって得られる資金を活用して、返済と引退後の資金確保を行うのも有効な手段です。
4. 患者の引き継ぎ先の不在
地方で開業した場合、いざ引退しようとしても患者の引き継ぎ先がな胃という問題に直面するケースがあります。特に、医師が不足している無医地区では、自分が引退するとその地域が無医地区となる場合も少なくありません。
無医地区とは「医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地域で、かつ容易に医療機関を利用できない地区」と定義されています。
2022年に厚生労働省が公表した調査によれば、無医地区は全国で557か所あり、その地区には12万2206人の住民が暮らしています。
出典: 厚生労働省|「令和4年度無医地区等調査および無歯科医地区等の調査」の概況 P3
通院中の患者を放っておくことは避けなければならず、引退の決断に悩む開業医は少なくないでしょう。引退を見据え、早期から事業承継を検討することが大切です。近隣の医療機関との連携を強化し、患者が安心して治療を継続できる体制を整備することが求められます。
5. やりがいや充実感の不足
引退後にやりがいや充実感を失ってしまうのが不安だ、と感じる開業医は多いでしょう。医師としての仕事が生きがいの一部になっているケースは、決して珍しいことではありません。
しかし、引退が必ずしも全ての活動を終えるわけではないため、体力的にフルタイムで働けなくなった場合は、働き方を柔軟に見直すことも重要です。
例えば、経営を他の人に委ね、自分は医師として診療を続けたり、週に1〜2日だけ診療に携わったりすると、医療への貢献を続けられます。また、医療ボランティアや地域の健康教育活動への参加など、新たなやりがいを見つける方法も検討できるでしょう。
開業に適した時期は?
開業医は働き方の自由度が高く、生涯現役で働ける可能性があります。
しかしながら、多くの医師は十分な臨床経験を積んでから開業するのがよいと考えており、初期臨床研修修了直後に開業するケースは少ないと想定されます。
具体的にはどの時期に開業するのが適しているのか、詳しくみていきましょう。
開業の適齢期は40代
開業の適齢期としては、一般的に40代がよいでしょう。
少し古いデータですが、日本医師会が2009年に実施したアンケート調査によると、実際にクリニックを開業した医師の平均年齢は41.3歳となっています。
この理由には、次のことが挙げられます。
職業的な使命感を十分に備えている
医療技術の面で成熟期を迎える
結婚・子育て・ローンなど家計の負担が増えてくる
家族との時間を増やしたい
40代は、仕事と家庭のバランスをとることが非常に重要な時期ともいえます。体力的な衰えを感じることが少ないため、忙しい総合病院の現場で活躍したい気持ちと開業の間で、葛藤を感じやすい時期です。
これからのキャリアをどうするかの決断には時間がかかるため、じっくり検討することが大切です。
開業は早くても医師10年目から
研修が終了した段階で開業するのは、リスクが大きいといえるでしょう。開業医には幅広い知識と深い洞察力が求められ、それ相応の経験が必要です。
一般的に、医師が一人前として独立するためには、初期臨床研修と後期臨床研修を合わせると最低でも5年、その後5年ほどかけてさまざまな経験を積むことが推奨されます。医師10年目ともなると、教育する立場としても十分に活躍でき、仕事へのやりがいも満ち足りる時期です。
これらのことから、開業は早くても医師10年目からがよいといえるでしょう。
勤務先の状況が変化したら開業?
勤務先の病院の状況が変化したときも、開業を検討するタイミングとなるケースは少なくありません。
例えば、大学病院で教授の退官に伴い、医局の医師が退職して開業するケースが挙げられます。
この場合、新しい教授の選任によって人事が不安定になることから、将来に不安を感じて開業を決断する医師もいます。
しかし、このような状況では注意が必要です。医局内で重要なポジションのスタッフを引き抜いて開業しようとすると、医局に残る医師からはよい印象を持たれず、訴訟問題に発展する可能性も全くないとはいえません。円満に退職するためには、誠実な態度と対応が求められます。
円満な引退のために開業のタイミングを見極めよう
開業医は心身ともに健康であれば、一般的な定年の年齢を超えても現役として働き続けられます。適切な時期に開業をすれば、30年以上にわたる開業医としての人生が送れ、十分にやりがいを感じながら働けるでしょう。
しかし引退が近づくとさまざまな悩みを抱え、対処が困難になる可能性もあります。円満な引退を迎えられるよう、適切なタイミングでの開業を検討、長期的な視点でキャリア計画を立てましょう。
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